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本特別推進研究は、本研究グループが独自に開発した世界最先端の海底地震・電磁気観測技術を駆 使し、長期海底機動観測から、現代固体地球科学の最重要課題「リソスフェア・アセノスフェア境 界の物理条件はなにか?」「マントル遷移層は水の貯蔵庫か?」の二課題に対して、明快な答を提出 することを目的として5 年間で実施する。
【研究計画の学術的な特色・独創性】
地震・火山現象を引き起こすプレート運動は、マントル全体で起きている「マントル対流」の表
層のあらわれに他ならない。地球活動全体の理解のためには、マントル対流の解明は必須であり、
観測・実験・計算機シミュレーションなどの手段により、さまざまな研究が活発に行われている。
最近10 年あまりの間にグローバルな観測研究には目覚ましい進展があり、全マントルの大まかな描
像はほぼ確立したと考える事ができる。最近の内外の観測研究の潮流は、特定の地域の詳細な研究
に重点をおき、特にマントル上昇流(わき出し口)と下降流(沈み込み口)に着目して行なわれて
いる。地球表層とマントル深部の間の物質と熱の移動がここで起こっており、ダイナミクスの理解
の上で不可欠と考えられるからである。これに対し本研究は、わき出し口と沈み込み口の間、すな
わち水平流の区間であり、表面積としては海洋底の大半を占める領域に着目し(図1)、西太平洋海
盆下のマントルを研究対象に設定する。本研究グループの最先端海底地震・電磁気観測技術により
はじめて解決の見通しがついた、以下の二つの基本的問題(a)と(b)の解決を目指す。
(a)リソスフェア・アセノスフェア境界の物理条件はなにか?: プレートテクトニクスの登場による 地球科学のパラダイム転換は、20 世紀の重要な「科学革命」の一つである。この動的地球観の根本 には、堅いプレート(リソスフェア)が軟らかいアセノスフェアの上をすべるように動くという考 え方がある。したがってプレートの底(Lithosphere-Asthenosphere boundary, LAB) がどのように なっているかを理解することはプレートテクトニクスの最重要課題といっても過言ではない。しか し、この問題は未だに解決されておらず、海洋アセノスフェアの高い流動性の原因は、マントル物 質の部分溶融による(Anderson & Sammis, 1970),鉱物の粒子サイズによる(Jackson, 2002)、鉱物中 の水の効果による(Karato & Jung, 1998)などの説がある。この問題の決着には、不均質な大陸地殻 を通さずに地球の深部を覗くことを可能にする海底観測の高度化を待つ必要があった。本研究では、 陸上と同程度の質の観測を可能にする新しい装置を導入し、詳細なLAB 境界面のマッピングと地震 波速度・電気伝導度の決定、それらのマントル対流論・レオロジー論的解釈を行ってこの問題に決 着をつける。
(b)マントル遷移層は水の貯蔵庫か?: 海洋は、地球形成時に高温の固体地球と平衡状態にあった大 気が地球の冷却とともに冷えて水(雨)となり出来たものであり、いわば固体(地球)の中から出 てきたと考えてもよい。45 億年の地球の歴史を通してのさらなる冷却により、現在海水は地球内部 に逆流していると考えられる。固体地球内部の水の存在は、物質の流動性、融解温度、元素分配な どに極めて重大な影響を及ぼし、その移動・分布を理解することは、 固体地球のダイナミクス・進 化のみならず地震発生・火山の生成にまで関わる、 21 世紀の固体地球科学がめざす最重要課題の一 つである。一方、高圧実験科学によれば、マントル遷移層構成鉱物は上部マントルおよび下部マン トルの構成鉱物よりもはるかに多くの水を含み得るとされる(Ohtani et al., 2004)。表層から深部へ、 または深部から表層への水輸送があるとすると、いずれの向きでも水は遷移層に蓄えられることに なり、遷移層が大量の水の貯蔵庫になっている可能性が指摘されている(Bercovici & Karato, 2003)。 特定領域研究「スタグナントスラブ」により、沈み込み帯での水の移動・存在に関してはかなりの 理解が進みつつあるが、地球の大半を占める「ふつうのマントル」の遷移層における水の存否を明 らかにしない限り、問題の根本解決にはほど遠い。本研究では、沈み込み帯でも沸き出し帯でもな い、ふつうのマントルの深部にどのくらい水があるかを、広帯域地震・電磁気データ同時解析から 定量化し問題解決を図る。
歌田久司 地震研究所 代表 川勝 均 地震研究所 塩原 肇 地震研究所 馬場聖至 地震研究所 一瀬建日 地震研究所 末次大輔 海洋研究開発機構 連携研究者: 本多 了 地震研究所 篠原雅尚 地震研究所 武井康子 地震研究所 清水久芳 地震研究所 竹内 希 地震研究所 西田 究 地震研究所 上嶋 誠 地震研究所 三部賢治 地震研究所 平賀岳彦 地震研究所 大林政行 海洋研究開発機構 田中 聡 海洋研究開発機構 杉岡裕子 海洋研究開発機構 多田訓子 海洋研究開発機構 志籐あずさ 海洋研究開発機構 伊藤亜妃 海洋研究開発機構
4億2960万円(間接経費 1億2888万円) H22 H23 H24 H25 H26 16300 7830 9000 4490 5340万円